追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「も……も、申し、訳」

 ありません、と開きかけた口はそれきり動かなくなる。
 いつの間にか真隣に座っていた鵜ノ崎さんの唇が、耳の傍まで寄ってきたせいだ。

「なんで謝るんだ」
「なんでって、……私、とんでもないご迷惑を」
「俺は迷惑だったとは思ってない。それより」

 耳に吐息がかかる。身動きが取れない。
 囁く声が一層低く――いや、色っぽくなる。

「昨日は可愛かったよ。いつもあんなふうに乱れるのか?」
「み、乱れ……っ!?」

 悲鳴じみた声がほとばしり、その自分の声にこそ脳幹をやられた。
 うう、と鋭く痛んだ頭を片手で押さえる間も、頬が燃えるように熱くなっていく。

「なぁ柊木」
「はっ、はい」
「冷静に考えてみてほしい。相手がもし下心のある男だったら、今頃自分がどうなってたか……例えば」

 叱責はある程度覚悟していたものの、胸が締めつけられる。
 けれど、すみません、と零す途中で私は口を動かせなくなった。
 頬に、指が伸びてきたせいだ。
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