追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
第1話 仕事に生きたい私、失態のち恋人係

《1》

『わぁ、ここにいたんだぁ歩加ちゃん!』

 語尾にハートマークがついているとしか思えない甘ったるい声で呼びかけられ、ああ、嫌だな、と心がひりついた。
 私より頭ひとつ分以上低い位置で、明るい茶色のボブヘアが、風に吹かれて軽やかに揺れている。小柄で可愛くて、愛嬌があって、誰からも愛されていそうな女の子に見える。

 同じ学部の(ひめ)()さんだ。
 私の恋人だったふたつ年上の先輩を、公衆の面前で奪った張本人。

 周囲を見回す。
 場所は大学の講堂前の広場だ。立ち話に興じるグループが数組、ベンチに座る男女、庭の木にもたれて本を開いている男子の学生。いつにも増して人が多い。

 その誰もが、唐突に、表情もなく私を凝視し始める。
 ひゅる、と喉が鳴った。複数人の不躾すぎる眼差しに、肌がヒリヒリと痛み出す。

『はいこれ、歩加ちゃんにも! 皆に配ってるんだぁ、(さか)(まき)先輩と行ってきた旅行のおみやげ~!』

 酒巻、という名が耳に届くや否や、ぎりりと胸が軋んだ。
 周囲からの視線は外れない。皆、姫田さんではなく私を見ている。〝ありがとう〟と言わなければならない空気が、広場全体に張り詰めている。
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