追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 早く受け取って言えよ、お礼を。
 誰もが目でそう言っている。無言のまま、皆が私を睨みつけている。悪者はお前だろ、と言わんばかりに。

 堪らず、私は顔を俯けた。
 唇を引き結び、うずくまったきりできつく目を瞑ったその瞬間、耳が救いの音を拾った。

 ――ピピ、ピピ、ピピ。

 無機質な音が、じりじりと、けれど確実に身体を揺さぶる。
 目覚ましのアラーム音だ。理解すると同時に、私は無理やり瞼をこじ開けた。

「……は」

 寝転がっていた身体の向きを変え、手探りでスマートフォンを探す。
 指先はほどなくスマホの角にこつんと当たり、私は首だけを動かしてアラームを止めた。

 しん、と途端に静かになる。ゆっくりと上体を起こしながら、さっきまで肌を刺してやまなかった複数の視線の消滅を確認するように、おそるおそる周囲を見回す。
 昨晩、ベランダから取り込んだきり放置していた洗濯物が、かごの中でぐちゃっとしている。そのさまを見て、私はむしろほっとした。

 良かった。ここは、間違いなく自室だ。
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