追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 仕事と?
 仕事を振っている俺、ではなく、仕事そのものと結婚したい? は?

 ――じゃあ、俺って柊木のなんなんだよ。

 いや上司だろ、ただの……と答えはとっくに出ていたのだが、異様に傷ついていた。
 あのとき俺は、表面上では微笑みながらも、胸の奥を粗いヤスリで無遠慮に擦られたような、ヒリヒリとひりつく感情をひたすら持て余していた。

 複雑で、嫉妬じみていて、そんな気持ちを抱くこと自体が滑稽で、激情にも似たあのぐちゃぐちゃの感情を俺はいまだに忘れられずにいる。

 初めて見た柊木の隙まみれの笑顔と〝仕事と結婚したい〟発言。つまりそれは、俺なんか眼中にないという宣言に他ならない。
 直後、柊木は『失礼しました、言葉が崩れました』と一瞬でオンモードに戻ってしまった。その鉄壁めいた所作が、直前の蕩けた微笑みとのギャップを煽り、俺の背を駄目押しとばかりに強く押した。

 溺れる気しかしなかった。
 避ける余裕があったなら避けたが、避けようと思って避けられるものでもないのだろう。気づいたときには落ちている。本来、恋とはそういうものなのだと、あの日心の底から思い知らされた。
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