追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 脈があるとかないとか、そんな次元にも届いていない。男として意識されていない。
 今までの恋愛相談は全部お前の話なんだが、と衝動に任せて明かしたくなる。だが、明かしたところでこの人の心を動かせる気がしない。こんな理由で気持ちを伝えられないなんて初めてで、参ってしまう。

 客室のエントランスで、全身から骨を抜かれたように崩れた華奢な身体を抱き上げた。
 吐くかも、と神妙な顔で口にしていたわりに、ベッドへ運ぶわずかな間、柊木は人の腕の中で健やかな寝息を立てていた。

 ふざけるなよお前、と毒づきたくなる。

「どうやったら落とせる……」

 ベッドに彼女を横たえ、掛布をかけてやりつつ、思わず独り言が零れた。
 男にホテルに連れ込まれた意識が皆無。こんな女をどうやったら落とせるのか、分からなすぎて眩暈がする。臓腑から絞り出すような、深い溜息が口をついて出た。

 無防備に眠りやがって、と思う。
 人の気も知らないでとんでもない女だ、とも。

 隣の部屋へ戻るつもりだったが、気が変わった。
 こうなったら明日の朝、馬鹿みたいに焦らせてやる。すやすやと健やかに眠る彼女を苦々しく一瞥し、額を押さえながらそう決めた。

 ――そして、今朝。
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