追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
『昨日は可愛かったよ』
『いつもあんなふうに乱れるのか?』

 わざと意地の悪い、かつ誤解を煽る言葉を選んだ。
 乱れる……間違ってはいない。昨日のあれは間違いなく、日頃の彼女からは想像もつかない醜態だったから。

 強張った表情がかわいそうで可愛くて、それなりに溜飲は下がった。
 こういうやり方は良くない、信頼関係にヒビを入れてしまう方法だ――頭では嫌というほど分かっている。だとしても、他に取るべき手段が思い浮かばない。

 男だと意識してくれさえしない女性を振り向かせるには、一体どうしたらいいのか。

 追いかける恋を知らない俺にはその答えは結局出せず、だからこそ、焦りのまま狡い手段を選んだ。
 見る間に赤く染まっていく頬を見つめた後、視線はほどなく首筋へ、次いではだけたシャツの襟ぐりへと動いてしまう。どうしたって目が行く。やわらかそうな白い肌が、無駄に目の奥に焼きついて残る。

『恋人になってほしい』

 縁談の件は嘘ではない。
 三十歳を過ぎてからは、それまで以上に身内が業を煮やすようにもなった。『特定の交際相手がいるならまだしも』と小言を零されるたび、特定の片想い相手ならいるが、と何度訴えかけたか分からない。
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