追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 この悪夢が早く終わってくれれば、とアラームが鳴るよりも前から心のどこかで思っていた。
 もっとも、夢の中の自分が〝これは夢だ〟と気づいているわけではなく、〝この最悪の現実よ早く終われ〟と念じているだけなのだけれど。

「……はぁ」

 最悪の目覚めだ。
 ひとり暮らしの手狭なアパートの室内に、重い溜息が響きわたる。

 自分の意思では切り上げられないのが、夢の嫌なところだ。
 今の自分が大学生であるはずがない。特にここ数年はひたすら仕事に明け暮れる毎日を送っているにもかかわらず、夢の中の自分はどうして異変を察知できないのだろう。

 のそりとベッドから這い出し、洗面所へ向かう。
 鏡に映った自分の顔がひどくやつれて見えるのは、昨晩の残業が深夜に及んだことが原因だ。そこに、今の悪夢が拍車をかけたのだろう。また溜息が零れた。

 私の記憶や夢の中に現れる姫田さんは、いつも本当に可愛い。
 私が持っていない種類の可愛らしさを、これ見よがしに私へ見せつけてくる。

 酒巻先輩が私を見限って姫田さんと付き合い始めたのは、私が十八歳、大学一年生の秋のことだ。
 外出の約束をドタキャンされたとか、渡したプレゼントを捨てられたとか、勝手に部屋の物を持ち帰られて困るだとか、身に覚えのない件で責められるようになって半月ほどが過ぎていた。
< 6 / 23 >

この作品をシェア

pagetop