追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 薄く微笑みかけられ、その顔がまるで〝柊木のおかげだからな〟と告げてでもいるようで、堪らず私は彼から視線を逸らした。

 それにしても〝鈴ヶ嶺〟か、と奇妙な既視感がよぎる。
 インパクトのある名前だし、聞き覚えもある気がしてならず、なんとなく落ち着かない。どこで聞いたのだったかと考えを巡らせて数秒、はっと思い出した。

 都議だ。同じ名字の都議会議員がいる。

 今、お父様は『鈴ヶ嶺さんのお孫さん』と言った。出張先のホテルで聞いた話――鵜ノ崎さんが今押しに押されている縁談とは、鈴ヶ嶺都議の孫との縁談だったらしい。
 そして、お父様は鵜ノ崎さんに事情を伝えられ、それを断った。その報告がこの電話ということなのだろう。望まない縁談が回避されたようで、私としてはなによりだ。

 ……でも、鈴ヶ嶺都議の孫って、確か。

 ほっとしたのも束の間、微かな引っかかりを覚えて眉が寄る。その正体を追おうとした矢先、鵜ノ崎さんたちの通話が再開してしまった。
 考え込みかけていた頭を、私は無理やり通話に集中させ直す。

『今回もお前の理由が〝多忙〟だけだったら、正直もう無理やりにでも席を組もうかと思ってたんだけどねぇ』
「やめてください。お相手側もきっと迷惑ですよ、そういうの」
『ん~、仕方ないよねぇ本当。……ところで』
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