追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「い、いいえ。とんでもないです」

 お父様からの提案を一蹴し、鵜ノ崎さんは私の腰に腕を回してくる。

『なにを言われても俺が断る』

 打ち合わせ通りの対応をしてくれてほっとする。
 ただし、接触に関してはやはり特に打ち合わせていない。やるならやるで、これも事前に教えておいてほしかった。

 馬鹿みたいに広い玄関で、たちまち怯みそうになる心をなんとか湧き立たせていると、お父様と目が合った。
 ……油断はできない。鵜ノ崎さんの目的は、結婚を前提とした交際相手がいると証明することにある。今後、鵜ノ崎さんが望まぬ縁談に悩まずに済むよう、私は彼の期待に恥じない働きを見せなければならない。

 さっきの電話がスピーカー設定にされていたことをお父様は知らないかもしれないと考え、電話の内容には触れずに話を続けた。
 微笑みだけは絶やさず、「統弥さんの大学の後輩でして」とか「二年半前に今の仕事で偶然再会しまして」とか、とにかく当たり障りのない方向で、でも決して〝こいつじゃ駄目だな〟と失望されてしまわないように――時間にすれば、ほんの数分程度だったと思う。

 ひとしきり話が終わると、お父様は感慨深そうに拳で顎を撫で始めた。
< 60 / 157 >

この作品をシェア

pagetop