追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 お父様に会釈をして背を向け、まだだ、まだ気を抜くな、玄関のドアがきちんと閉まるまでは、と必死に自分に言い聞かせる。

 広すぎる玄関を後にして、やはり広すぎる庭に敷かれた石畳を駐車スペースへ向かって歩きながら、やっとのことで息をついた。

「はぁ、……はぁあ……ッ」

 腰から鵜ノ崎さんの手が離れた途端、どっと汗が吹き出した。

「お疲れ。ていうか、なんか」

 顎に指を添えて呟いた鵜ノ崎さんを、うまく直視できない。
 あれはちょっとな、という駄目出しかもしれない。確かに余計なことも言ってしまったかもしれない。きゅ、と胸が縮む思いがして、でも。

「完璧だった。さすがだ、柊木」

 は、と吐息に交ざって声が漏れた。
 お褒めの言葉だった。良かった。今度こそすみずみまで気が抜ける。
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