追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 私の地元も海の近くではあるけれど、はなから印象が違う。
 船着き場に漁船しか停まっていないこぢんまりとした漁港を思い返し、まぁあれはあれで好きな風景だったけど、とつい苦笑してしまう。

「柊木には船なんか珍しくもないか。別の場所のほうが良かったかな」
「そ、そんなことないです。こんなふうにおしゃれして船に乗るなんて初めてですし、というかクルーズ船って初めてですし」
「なら良かった」

 今は室内にふたりきりだからか、鵜ノ崎さんの話し方は少し砕けている。
 この人って学生の頃からこういうデートをしてきたのかな、と思ったらなんだか胸が苦しくなった。

 十年前は私が一方的に知っているだけだった雲の上の有名人と、今こうして並んで一緒に過ごして、先日には仕事とはいえ実家にお邪魔して、さらにはこんな贅沢なデートにまで誘われてしまっている。

 ――だけど〝嘘〟なんだよな、これ全部。

 ちり、と胸の奥が痛む。
 今日のすべては、仕事が上手にできたご褒美というだけだ。今までもそうだった。自分ひとりではとても入れないような高級なレストランに連れていってもらうことだってあって、今日もそれと一緒だ。
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