追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 それからコースの料理を堪能した。
 窓の外も室内も明るく、給仕スタッフ以外の人目もなかったから、食事中はそんなに緊張せず楽しめた。

「ごちそうさまでした」

 手を合わせてから、誘われて外に出た。
 二階から甲板に出る。手を取られてエスコートされる間、私は履き慣れない靴と足元をひたすら気にしていたものの、階段を上り終えて視線を上向けた瞬間「わぁ」と弾んだ声が漏れた。

「涼しい……気持ちいいですね、風も穏やかで」
「そうだな」

 船が掻き分ける波が、日光を反射しながら白い飛沫を散らす。海の青と波飛沫の白が眩しくて、私は堪らず目を細める。
 ちょうどそのとき、真上の高い場所を、灰色の橋の底面が通り過ぎていった。いや、通り過ぎているのは私たちのほうか、と橋が生む影に包まれてから遅れて理解が及ぶ。

 ふたりきりでクルーズ船を貸し切るなんて、よく考えたらとんでもない。
 今頃になってからそわそわと落ち着かなくなる。

「船酔いは? してないか?」
「大丈夫ですよ。私を酔わせるのは基本お酒だけですので……」
「ああ、うん。そうだったな」
「『そうだったな』じゃないですよ、早く忘れてくださいあんな恥ずかしい話!」
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