追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 羞恥に駆られるまま声を張り上げる。
 鵜ノ崎さんが楽しげに笑うから、私もつられて噴き出してしまった。

「あっ」

 そのとき不意に強い風が吹き、羽織っていたストールが外れそうになる。掴もうとしたその裾を、鵜ノ崎さんの指が先に捉えた。

「風、結構出てきたな。寒くないか?」
「あ……りがとう、ございます。大丈夫です」

 ふわ、とストールを直されたときに淡い香水の香りが鼻を掠め、そのせいで距離の近さを強烈に意識する。
 お礼の言葉は派手に上擦って、恥ずかしくて視線を上げられなくなる。

 まただ。異様に意識している。多分、私だけが。
 普通に笑い合っていたのに、この気持ちって本当になんなんだろう。長い指に直してもらったストールを、私は(しわ)になるほどきつく握り締める。

「柊木のこと、案外なんにも分からないんだよな。二年以上一緒にいるのに」
「まぁ……そうですね。プライベートではなにをどうしていたわけでもないですしね」
「それはそうだけど」

 揺らぐ内心を表に出したくなくて、視線を合わせないまま愛想のない返事をしてしまう。
 一方の鵜ノ崎さんは、動じた様子なんてちっとも見せない。
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