追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 船のエンジン音が、ふと耳から遠くなる。

「前はそれも仕方ないと思ってた。結婚までは好きにしていいって言われてたし……けど」
「……けど?」
「そういうの、嫌になった。今さら」

 目が合う。なんとなく見ていられなくなって、私は視線を泳がせるようにして鵜ノ崎さんから目を逸らす。
 それでもまだ見つめられていると分かって、急に胸がきりきりと痛み始める。

「一緒に生きてくなら、添い遂げたいって思える人とがいい。身内の中で、俺だけ今さらそういう夢を見てる」

 夢、という最後の言葉が鮮烈に耳に残った。
 鵜ノ崎さんが初めて私に語った彼の結婚観は、図らずも私が直前に伝えたそれとほぼ一致していて、こくりと喉が鳴る。

「けど鵜ノ崎さん、意中の方と、うまくいかなかった……んですよね」
「意中の方て」

 笑われてしまった。でも私は笑えなかった。
 たどたどしく尋ねたきり、返事を待つしかできない。

「どうかな。俺は諦めが悪いから、まだ希望を捨てきれてない」

 今度こそ言葉を失った。
 この人にそこまで言わせる相手の女性は、本当に何者なんだろう。前にも似たことを思った。けれど、そのときとは明らかになにかが違う。
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