追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「知ってたんですか」
「うん」
「知ってたのに、二年以上も、黙ってたってことですか」
「覚えてるって言ったらその瞬間に退職されそうで言えなかった。柊木には俺の秘書、絶対辞めてほしくなかったから」

 鵜ノ崎さんの返事は淀みない。
 いつか真相を打ち明ける日がくると、それが今日なのだと、鵜ノ崎さんはあらかじめ想定していたのかもしれなかった。

『絶対辞めてほしくなかったから』

 言われたばかりの言葉を、私は浅い呼吸を繰り返しながら反芻する。
 ビジネスパートナーとしてこんなに嬉しい言葉はない。鵜ノ崎さんは私を高く評価してくれている。私を必要だと思ってくれている。

 でも、どうしてだろう。
 以前なら満足感に満たされていたはずなのに、その言葉に、今の私は渇きを覚えている。それだけじゃ足りない、もっと、という気がしてしまう。

 もっとどうしてほしいのか。
 そこまでは分からないのに、癒えない渇きだけがざっくりと胸を蝕んでいる。

「それと、悪いとは思ったけど調べた。柊木が前の仕事、辞めた理由」

 予想外の話が続く。
 は、と息を漏らしながら、私はいつしかストールを皺くちゃになるほど強く握り締めていた。
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