追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「原因の女、柊木はどうしてほしい?」
「ど、どう、って」
「きな臭い奴みたいだし、社会的に始末するくらいなら簡単にできそうだけど」

 物騒な言葉が、風に遮られることなくはっきりと耳に届く。
 絶句する。そんな話が続くとは露ほども思っていなかった。今日のこの豪勢なデートだけではなく、もしかして、今の危うい提案も含めて〝お礼〟のつもりだったのだろうか。

 そういうお礼は要らない。なにより、鵜ノ崎さんはどこまで知っているのか。『原因の女』、そして『きな臭い奴』……それが彼女だとも、もう知っているとしたら。

 羽織らせてもらったストールを、さらにぎゅっと握り締める。

 前の会社に中途で入社してきた姫田さんが吹聴した噂は、職場での私を簡単に殺した。
 そう、あの姫田さんだ。大学時代、公衆の面前で私から酒巻先輩を奪い取った人。全体朝礼で紹介された彼女と目が合ったときは、心底ぞっとした。

 誰も彼も、遠からず姫田さんの味方になる。
 姫田さんはそうなるように立ち回っている。

 思えば学生時代からそうだった。
 愛嬌があって話し上手で、立場が上の人への気遣いもできる。チーム内の潤滑油的な働きも上手だ。
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