追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 一方で、彼女に〝気に入らない〟と目をつけられてしまえば、標的はなかなか逃げられない。
 仕事一辺倒、最低限の付き合いのみで生きてきた私なんて、それこそ扱いやすかったに違いない。手始めに、と練習台にされた感すらある。

 私に対する姫田さんの態度には、明らかに悪意があった。
 彼女が転職してきたこと自体はたまたまだと思いたい。個人的に執着される理由も思い当たらない。そればかりは、私の運が悪かっただけだ。

 姫田さんは、上司を含めた男性たちのみならず、元から私を快く思っていなかった女性社員たちも早々に自分の味方につけた。元から単独で動くことの多かった私が孤立するまでに、時間はそうかからなかった。
 同時期に流れた、身に覚えのある噂とそれに伴うセクハラや心ない言葉は、私の心を一層疲弊させ、そして私は転職の準備を始めた。

 私がいなくなったから現場がうまく回らなくなる、という事態にはならない。
 どこの会社もそういうふうにできている。人の多い職場ほどそうだ。だからこそ、私もまるで空気のように辞めることができた。

 別に私は、今さら姫田さんにどうにかなってほしいわけではない。
 今の仕事が楽しいからだ。満たされているからだ。あの頃のつらい記憶は決して消えはしないけれど、これで良かったのは真実だ。
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