追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 今の仕事は、私の安住の地。
 それなのに、その安寧を生み出している張本人が今、目の前でとんでもないことを言い出している。

「なんでもやれるよ、俺。柊木のためなら」
「……なんで、ですか」
「柊木だって俺のためになんでもしてくれてるだろ。誰も好きになりたくないくせに、仕事だからって俺の恋人にまでなっちゃって」

 心臓がずっと痛い。
 鵜ノ崎さんの顔は、いつの間にか、さっきよりもさらに近くにあった。

「私は」

 風になびく髪をそっと撫でられ、身を引きたいのにできない。
 瞬きひとつできない。

「別に、誰かを好きになりたくないわけでは……追いたくないだけです、私、追ったら嫌われるから、そういうのはもう、……それに私、今さら姫田さんにどうにかなってほしくなんて、別に」

 考えがまとまらないうちに零れ始めた言葉は、自分でも困惑するほど不明瞭で、しかもふつりと半端に途絶えてしまう。
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