独占欲に火がついた御曹司が溺愛猛追で鉄壁ガードを崩してきます
 アパートまで送ってもらった帰り際は、とうに日が暮れつつあった。
 薄暗い車の中で、あのとき私たちは……いけない。今日はこれから仕事なのに、今思い出したらまた昨日みたいに動けなくなりそうだ。

 でも、そうと分かっていてもどうしたって蘇ってしまう。
 美味しいご飯、綺麗な海、心地好い風。それだけで十分なのに、エスコートされたときの手の大きさとか、ストールを羽織らせてくれたときに肩に触れた指の感触とか、香水の匂いとか、結婚観の話とか、近づきすぎた顔とか、別れ際の髪への触れられ方とか――そういうことばかりが頭を巡る。

 本当にいけない。浮つきっぱなしだ。
 あれからずっと、私はただの一度も平静を取り戻せていない。

 ファンデーションのパフを摘む指先に、ぎ、と力がこもる。
 化粧だ。化粧をすべき。今はもうなんでもいいから化粧に集中するしかない。

 義務的な気持ちに駆られながら、私は職場に向かうための武装を再開した。
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