追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
     *


「おはようございます」

 出社すると、フロアにはすでに数名の社員が揃っていた。

「おはようございます、柊木さん!」
「すみません。少し遅れてしまい」
「いやいや、自分らがちょい早かっただけですんで!」

 田口さんの隣には営業の谷俣さん、それからカスタマーサポート担当の()(ざわ)さんもいる。

 役つきの上司、そして代表である鵜ノ崎さんも含め、当社には全員が「さん」づけで名前を呼び合う風習が根づいている。
 前職では考えられなかった文化だ。関わり合いにならない人のいない、少人数編成の会社ならではの社風だと思う。

 皆、フロア奥の談話スペースに集まっていて、私は小走りでそちらに向かう。
 小沢さんは、数少ない女性陣のひとりだ。だいぶ久しぶりに顔を合わせた気がする。

「おはようございます柊木さん! ねぇ~こないだのヘルプ本っ当にありがとうございました、めちゃめちゃ助かりました~!」

 小沢さんの隣の席に腰を下ろした途端、ぎゅ、と彼女に手を取られた。
 こないだのヘルプってなんだっけ、と一瞬考えてから、ああ、鵜ノ崎さんのドイツ出張のときか、とようやく思い至る。
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