刺繍に込めた本当の幸福
「どうかしら」

 ルミナの声に、ハッとして振り返ります。
 そこには、白いドレスを身にまとった、美しい少女が立っていました。

 真っ白なドレスが、空中でふわりと膨らみます。 その柔らかな布のひだをなぞるようにして、ルミナの滑らかな肩のライン、細い腰、そしてはにかむような微笑みが、まるで霧が晴れるようにゆっくりと浮かび上がってきたのです。

 透明のはずのルミナの表情や姿が、ドレスを着ることで、はっきり見えるようになったのでした。

(素敵です……)

 心からそう語りたかったのに、喉が震えて言葉になりません。

 白いドレスが世界で一番似合うルミナの笑顔に、シルヴァンは呼吸さえ忘れて、ただただ見つめてしまうのです。

 ルミナはスカートの裾をふわりと広げるようにつまみ、舞うように、そして時には背中を向けながら、鏡に映る自分の姿を嬉しそうに見つめています。

「ありがとう、シルヴァン。私、このまま……このままお出かけするわ」

(えっ、出かける? 一体、どこに行くのだろう……)

 シルヴァンは、なぜだか言い知れぬ胸騒ぎを覚えました。

 店の入り口のドアノブに手をかけると、ルミナはもう一度だけ振り返り、いつもの優しい笑顔のまま話しかけます。

「シルヴァン。あなた最近、少し顔色が悪いわよ。あまり無理をしないでね」

 そう言い残すと、彼女ははにかんだ表情のまま扉を閉め、お店を出て行ってしまいました。

 ルミナの後ろ姿を、無理に作った笑顔で見送ったシルヴァンは、彼女の姿が見えなくなると同時に、 急いで引き出しから一冊のノートを取り出し、広げました。

 そこには「忘れてはいけない」と書かれ、ルミナに関わることが書かれていました。

 シルヴァンは指で文字を読むように辿っていきます。
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