刺繍に込めた本当の幸福
 ノートの最初には、「姿を見せてあげたい」と書かれた決意の文字だけが、はっきりと残されていました。

  けれど、その後に続く言葉は、まるで迷いながら書いたかのように「書きかけの言葉」ばかりで、ペン先が止まったままついた、インクの滲みの跡だらけになっています。

 ペン先から零れたインクの滲みは、まるでシルヴァンが失ってしまった記憶の欠片が、紙の上にこびりついているかのようでした。

 それでも、解読するように文書を繋げて読み進めると、かつての自分が残した震える筆跡をなぞる指先が、冷たい夜の風に触れたように凍えていきます。

(あった。そうだ。ルミナには好きな人がいて、僕はこのハサミで作った糸で彼女の恋が実るように祈りながら縫っていたんだ。協力してあげたいと、心から願ったんだ)

 けれど、シルヴァンの指がノートの隅にある、走り書きのような「ルミナの想い人」という文字。 

 その筆跡だけが、震えるように乱れていました。

「想い人……。なぜだろう、この文字を読むだけで、胸が焼け付くように痛むのは」

 シルヴァンはルミナの心を寄せる人の姿を、どうしても思い出すことができません。

 いえ。まだ一度も目にしたことがないのかもしれない、と恐ろしい不安が胸をよぎります。

 あのドレスを身にまとい、透明な彼女がその姿を人に見せられるのは、わずか一日だけ。

 そんな彼女をすべて受け入れてくれる、その幸せな男は一体、誰なんだろう。

 ……僕は、その見知らぬ男のために、自分の影を削りながらあのドレスを縫っていたのだろうか。

 さっき彼女は、よそよそしい僕の口調を笑っていた。
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