鷹宮先輩、ズルいです 〜泣き顔を拾われたら、極甘上司に溺愛されました〜
第16話 リセイとホンノウのボーダーライン
カチッ、と磁器同士が触れ合う音が静寂に響く。
向かい側に座る鷹宮先輩は、最後の一口を飲み干すと、静かにカップを置いた。
ネイビーの眼鏡の奥、その瞳は一度もあたしから逸らされることなく、重く、深く、熱を帯びている。
「……満足したか」
「は、はい……」
逃げるように食器を下げようとしたあたしの手首を、大きな手が捕まえた。
「……片付けなんかどうでもええ。……こっち来い」
低く、喉の奥を鳴らすような声。
その響きだけで、あたしの心臓は従順な音を立てて跳ねた。
リビングの灯りが間接照明に切り替わり、部屋の空気が一変する。
ソファに座った瞬間、先輩は距離をゼロにした。
逃げ場を塞ぐように背後に回された腕。耳元で囁かれる、低く掠れた声。
「お前、さっき『我慢しなくていい』言うたけど……ほんまに分かってんのか?」
頬をなぞる指先が、唇の端に止まった。
「……分かってます。あたし、先輩が……」
「……ほんまに?」
唇が触れそうな至近距離。先輩はあと数ミリのところで動きを止めた。
吐息があたしの唇をくすぐる。意地悪なほどに、あたしの理性が決壊するのを待っている。
「……先輩、ズルいですっ……」
脆くて凶暴な笑み。
「ズルいんは、葵やろ。……こんな顔して煽って。もう、引き返されへんで」
焦れったさに背中を押され、あたしは彼のシャツの裾を掴んだ。
「……あたしも、先輩に触りたい」
「……誰に教わったん、それ」
盛大な溜め息と共に、先輩はあたしの首筋に顔を埋めた。
「……このままやと、俺ほんまに止まらんで」
「それならお風呂、一緒入りますか?」
自分で言ってから、少しだけ首を傾げる。
一瞬、空気が止まった。
「……っ、やめとけ」
低く吐き捨てる声。
「……お前、無自覚か……ほんま……試してんのか、俺を」
堪えきれなくなったように、先輩の腕があたしの背中を強く引き寄せた。
逃げ場なんて最初からない。
深く、選ぶようなキス。
さっきまで必死に抑えていた熱が、一気に溢れ出したみたいだった。
「……あっぶな」
額を押し付ける。
「ほんまに、超えるとこやった」
「……もうちょっと、してほしい……」
あたしの理性が先に壊れた。
鷹宮先輩は片手で顔を覆い、細く長く息を吐く。
「葵、ほんまに壊したなる前に、今日は終わり」
額に落とされたキスは優しすぎて、逆に胸が疼く。
「続きは、ちゃんと大事にやる。俺の彼女、やしな」
そう言い切った彼の横顔は、夜の闇の中で驚くほど切実だった。
***
「……俺のベッドで寝るん?」
「……ダメなら、床でも」
「床なんか余計あかんわ」
結局、並んでキングサイズのベッドに横たわる。
「聖人君子とちゃうで」と釘を刺したけど、もはや葵には届かへんみたいだ。
腕の中に収まる柔らかな重みが、俺の思考をぐちゃぐちゃにかき乱す。
布団の中で混ざり合う体温。
葵がもぞもぞと寝返りを打ち、細い足が俺の足の間に滑り込んだ。
(……あかんっ……)
脳内の警告灯が最大音量で鳴り響く。
葵は無意識に俺の胸元に顔を埋め、パジャマをぎゅっと握りしめた。
「……ん……せんぱい、あったかいです……」
鎖骨を掠める吐息。
お前、猛獣の檻の中で肉を差し出してる自覚あんのか?
抱き潰したい、俺だけのものだと分からせてやりたい。
俺の「なけなしの理性」は、今や墓場に片足突っ込んでいた。
「……じっとしとけ。俺が寝られへん」
ドスの利いた掠れ声が出る。
「あたしもです」
くすっと無邪気に笑う振動が胸に響く。
あかん、好きすぎてしんどい。
自分の家のごたつきも、歴代の彼女たちとの空虚な付き合いも、この温もりの前ではすべてが霞む。
俺は壊れ物を抱えるような力加減で、彼女を抱きしめ直した。
***
薄いカーテン越しの光が、部屋を淡く染めている。
「……おはようございます」
「ん…………はよ」
寝起き三割増しの色気に、心臓が跳ねる。
抜け出そうとしても、大型犬のように甘える鷹宮先輩に捕獲されて動けない。
「……昨日の続き、ですか?」
「…………理性、まだ起きてるわ」
ホッとしたような、残念なような。
「……煽んな。その顔で見るな。……キス待ちの顔」
頬をなぞる親指。
昨日のリップはもう落ちているのに、自分の唇が彼の熱に染め上げられていくのが分かった。
「あのリップ、会社ではつけてくんな。……唇ごと食べたくなるから」
ゆっくり、距離が縮まる。
「……葵からドーゾ。待ってるんやろ?」
挑発に乗り、一瞬だけ唇を重ねる。
温度だけを残して離れると、鷹宮先輩が唇の端をペロッとなめた。
「おはようのキスやな。……ほんまに、俺のやな」
お互いの存在を確かめ合うように、再び腕が回る。
「……五分だけ。このまま」
昨夜の激しい衝動さえ溶かしていくような、穏やかな光。
二人の境界線は溶け落ちて、
距離はもう、
理性じゃ測れないところまで、ゼロになった。
向かい側に座る鷹宮先輩は、最後の一口を飲み干すと、静かにカップを置いた。
ネイビーの眼鏡の奥、その瞳は一度もあたしから逸らされることなく、重く、深く、熱を帯びている。
「……満足したか」
「は、はい……」
逃げるように食器を下げようとしたあたしの手首を、大きな手が捕まえた。
「……片付けなんかどうでもええ。……こっち来い」
低く、喉の奥を鳴らすような声。
その響きだけで、あたしの心臓は従順な音を立てて跳ねた。
リビングの灯りが間接照明に切り替わり、部屋の空気が一変する。
ソファに座った瞬間、先輩は距離をゼロにした。
逃げ場を塞ぐように背後に回された腕。耳元で囁かれる、低く掠れた声。
「お前、さっき『我慢しなくていい』言うたけど……ほんまに分かってんのか?」
頬をなぞる指先が、唇の端に止まった。
「……分かってます。あたし、先輩が……」
「……ほんまに?」
唇が触れそうな至近距離。先輩はあと数ミリのところで動きを止めた。
吐息があたしの唇をくすぐる。意地悪なほどに、あたしの理性が決壊するのを待っている。
「……先輩、ズルいですっ……」
脆くて凶暴な笑み。
「ズルいんは、葵やろ。……こんな顔して煽って。もう、引き返されへんで」
焦れったさに背中を押され、あたしは彼のシャツの裾を掴んだ。
「……あたしも、先輩に触りたい」
「……誰に教わったん、それ」
盛大な溜め息と共に、先輩はあたしの首筋に顔を埋めた。
「……このままやと、俺ほんまに止まらんで」
「それならお風呂、一緒入りますか?」
自分で言ってから、少しだけ首を傾げる。
一瞬、空気が止まった。
「……っ、やめとけ」
低く吐き捨てる声。
「……お前、無自覚か……ほんま……試してんのか、俺を」
堪えきれなくなったように、先輩の腕があたしの背中を強く引き寄せた。
逃げ場なんて最初からない。
深く、選ぶようなキス。
さっきまで必死に抑えていた熱が、一気に溢れ出したみたいだった。
「……あっぶな」
額を押し付ける。
「ほんまに、超えるとこやった」
「……もうちょっと、してほしい……」
あたしの理性が先に壊れた。
鷹宮先輩は片手で顔を覆い、細く長く息を吐く。
「葵、ほんまに壊したなる前に、今日は終わり」
額に落とされたキスは優しすぎて、逆に胸が疼く。
「続きは、ちゃんと大事にやる。俺の彼女、やしな」
そう言い切った彼の横顔は、夜の闇の中で驚くほど切実だった。
***
「……俺のベッドで寝るん?」
「……ダメなら、床でも」
「床なんか余計あかんわ」
結局、並んでキングサイズのベッドに横たわる。
「聖人君子とちゃうで」と釘を刺したけど、もはや葵には届かへんみたいだ。
腕の中に収まる柔らかな重みが、俺の思考をぐちゃぐちゃにかき乱す。
布団の中で混ざり合う体温。
葵がもぞもぞと寝返りを打ち、細い足が俺の足の間に滑り込んだ。
(……あかんっ……)
脳内の警告灯が最大音量で鳴り響く。
葵は無意識に俺の胸元に顔を埋め、パジャマをぎゅっと握りしめた。
「……ん……せんぱい、あったかいです……」
鎖骨を掠める吐息。
お前、猛獣の檻の中で肉を差し出してる自覚あんのか?
抱き潰したい、俺だけのものだと分からせてやりたい。
俺の「なけなしの理性」は、今や墓場に片足突っ込んでいた。
「……じっとしとけ。俺が寝られへん」
ドスの利いた掠れ声が出る。
「あたしもです」
くすっと無邪気に笑う振動が胸に響く。
あかん、好きすぎてしんどい。
自分の家のごたつきも、歴代の彼女たちとの空虚な付き合いも、この温もりの前ではすべてが霞む。
俺は壊れ物を抱えるような力加減で、彼女を抱きしめ直した。
***
薄いカーテン越しの光が、部屋を淡く染めている。
「……おはようございます」
「ん…………はよ」
寝起き三割増しの色気に、心臓が跳ねる。
抜け出そうとしても、大型犬のように甘える鷹宮先輩に捕獲されて動けない。
「……昨日の続き、ですか?」
「…………理性、まだ起きてるわ」
ホッとしたような、残念なような。
「……煽んな。その顔で見るな。……キス待ちの顔」
頬をなぞる親指。
昨日のリップはもう落ちているのに、自分の唇が彼の熱に染め上げられていくのが分かった。
「あのリップ、会社ではつけてくんな。……唇ごと食べたくなるから」
ゆっくり、距離が縮まる。
「……葵からドーゾ。待ってるんやろ?」
挑発に乗り、一瞬だけ唇を重ねる。
温度だけを残して離れると、鷹宮先輩が唇の端をペロッとなめた。
「おはようのキスやな。……ほんまに、俺のやな」
お互いの存在を確かめ合うように、再び腕が回る。
「……五分だけ。このまま」
昨夜の激しい衝動さえ溶かしていくような、穏やかな光。
二人の境界線は溶け落ちて、
距離はもう、
理性じゃ測れないところまで、ゼロになった。