野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
翌日、薫の君からお見舞いのお手紙が届いた。
真面目なあっさりとした文面で、
「ご体調が悪いと聞きましたが、いかがですか。お見舞いに伺いたいと思いながらも、いろいろと多忙でして。もうすぐあなたを都に迎えられると思うと、一日一日がとても長く、これまで以上に胸が苦しくなります」
とある。
匂宮様からも、昨日に引きつづきお手紙が届いた。
昨日お返事がなかったから、
「迷っているのですか。薫の君を選ぶのだろうかと落ち着きません。ますますあなたのことしか考えられなくなっている」
と、こちらは長々とお書きになっている。
この二通はほとんど同時に届いたの。
薫の君と匂宮様のお使者は山荘でばったり出くわした。
実はこれが二回目よ。
いつだったか雨が続いた日も、このお使者たちはお手紙を届けにきて会っている。
薫の君のお使者は、相手の男に見覚えがあった。
「そなたは大内記様のお屋敷に出入りしている者ではないか。先日もここで会ったが、何をしに来ているのだ」
怪しんで尋ねると、男はあたふたしながら答えた。
「恋人に会いにきただけだ」
「女房に手紙を渡していただろう。会いにきたのに手紙を渡すのか。そんなはずはあるまい。本当は何をしに来たのだ」
「実は私の主人の時方様が、ここの女房を恋人にしておられるのだ。それでお手紙を届けにきた。それだけだよ」
すると、さっきの女房が返事らしき手紙を持ってきた。
男はあわてて受け取ると、振りかえりもせず帰っていく。
<それなら最初からそう言えばよいのに。妙だな>
薫の君のお使者はまだ怪しんでいる。
よく気の回る人なので、自分が連れてきたお供の少年にこっそり耳打ちした。
「気づかれないようにあの男のあとをつけよ。本当に時方様のお屋敷に戻るか見てまいれ」
それからお使者も薫の君のお手紙を女房に渡す。
女君からのお返事を受け取って都へ戻った。
薫の君のお屋敷が近づいたころ、男の尾行をさせた少年が小走りにやって来た。
「見てまいりました。先ほどの男は、時方様のお屋敷ではなく二条の院に入りました。手紙は大内記様にお渡ししていました」
匂宮様は、乳母子の時方が下働きとして使う男をお使者になさっている。
何も事情を知らない、身分の低い者の方がよいと思われたのでしょうけれど、それが裏目に出たわね。
男は「何やら訳ありの手紙らしい」くらいは感じていても、まさか宮様の秘密を運んでいる自覚はない。
それで宮様のお屋敷に入るときも警戒しなかったのでしょう。
残念なことね。
薫の君のお使者は三条邸に戻ると、浮舟の君からのお返事を取次ぎの女房に渡す。
ちょうど薫の君はお出かけなさるところだった。
中宮様が六条の院にお里下がりなさっていて、これからご挨拶に上がられるの。
お庭からお使者が女房に話す声が聞こえる。
「気になることがありましたので、それをはっきりさせてからと思い、少し遅くなりました」
身支度を整えた薫の君は濡れ縁にお出になって、
「何があった」
と尋ねなさる。
お使者は女房の方をちらりと見たあと、黙ってかしこまっている。
女房に聞かせない方がよい話だと判断したのね。
「あとで聞こう」
薫の君は軽くうなずくと、そのまま乗り物にお乗りになった。
真面目なあっさりとした文面で、
「ご体調が悪いと聞きましたが、いかがですか。お見舞いに伺いたいと思いながらも、いろいろと多忙でして。もうすぐあなたを都に迎えられると思うと、一日一日がとても長く、これまで以上に胸が苦しくなります」
とある。
匂宮様からも、昨日に引きつづきお手紙が届いた。
昨日お返事がなかったから、
「迷っているのですか。薫の君を選ぶのだろうかと落ち着きません。ますますあなたのことしか考えられなくなっている」
と、こちらは長々とお書きになっている。
この二通はほとんど同時に届いたの。
薫の君と匂宮様のお使者は山荘でばったり出くわした。
実はこれが二回目よ。
いつだったか雨が続いた日も、このお使者たちはお手紙を届けにきて会っている。
薫の君のお使者は、相手の男に見覚えがあった。
「そなたは大内記様のお屋敷に出入りしている者ではないか。先日もここで会ったが、何をしに来ているのだ」
怪しんで尋ねると、男はあたふたしながら答えた。
「恋人に会いにきただけだ」
「女房に手紙を渡していただろう。会いにきたのに手紙を渡すのか。そんなはずはあるまい。本当は何をしに来たのだ」
「実は私の主人の時方様が、ここの女房を恋人にしておられるのだ。それでお手紙を届けにきた。それだけだよ」
すると、さっきの女房が返事らしき手紙を持ってきた。
男はあわてて受け取ると、振りかえりもせず帰っていく。
<それなら最初からそう言えばよいのに。妙だな>
薫の君のお使者はまだ怪しんでいる。
よく気の回る人なので、自分が連れてきたお供の少年にこっそり耳打ちした。
「気づかれないようにあの男のあとをつけよ。本当に時方様のお屋敷に戻るか見てまいれ」
それからお使者も薫の君のお手紙を女房に渡す。
女君からのお返事を受け取って都へ戻った。
薫の君のお屋敷が近づいたころ、男の尾行をさせた少年が小走りにやって来た。
「見てまいりました。先ほどの男は、時方様のお屋敷ではなく二条の院に入りました。手紙は大内記様にお渡ししていました」
匂宮様は、乳母子の時方が下働きとして使う男をお使者になさっている。
何も事情を知らない、身分の低い者の方がよいと思われたのでしょうけれど、それが裏目に出たわね。
男は「何やら訳ありの手紙らしい」くらいは感じていても、まさか宮様の秘密を運んでいる自覚はない。
それで宮様のお屋敷に入るときも警戒しなかったのでしょう。
残念なことね。
薫の君のお使者は三条邸に戻ると、浮舟の君からのお返事を取次ぎの女房に渡す。
ちょうど薫の君はお出かけなさるところだった。
中宮様が六条の院にお里下がりなさっていて、これからご挨拶に上がられるの。
お庭からお使者が女房に話す声が聞こえる。
「気になることがありましたので、それをはっきりさせてからと思い、少し遅くなりました」
身支度を整えた薫の君は濡れ縁にお出になって、
「何があった」
と尋ねなさる。
お使者は女房の方をちらりと見たあと、黙ってかしこまっている。
女房に聞かせない方がよい話だと判断したのね。
「あとで聞こう」
薫の君は軽くうなずくと、そのまま乗り物にお乗りになった。