野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
(さと)()がりなさった中宮(ちゅうぐう)様は、またご体調がすぐれない。
匂宮(におうのみや)様をはじめ、たくさんの貴族がお見舞いに参上なさっている。
六条(ろくじょう)(いん)(さわ)がしいほどだけれど、(さいわ)いたいしたご病気ではないみたい。

大内記(だいないき)は役所での仕事を終えてからお見舞いに()けつけた。
浮舟(うきふね)(きみ)からのお返事が二条(にじょう)(いん)に届いたとき、すでに宮様は六条の院にお越しだったの。
受け取っておくように頼まれたお返事を、大内記はここでお渡しするつもりで持ってきている。
ただ、人目(ひとめ)が多い。
宮様は大内記を目立たないところへお呼びになった。
女房(にょうぼう)たちの控室(ひかえしつ)のようなところよ。

偶然近くを(かおる)(きみ)が通りすぎようとなさった。
宮様が大内記から手紙を受け取っていらっしゃるので、つい立ち止まりなさる。
<こんなところで(かく)れて受け取られるとは、また秘密の恋をなさっているのだな。よほどお待ちかねの恋文のようだ>

宮様はすぐにお手紙をご覧になる。
赤い美しい紙に、細々(こまごま)と書かれているようね。
夢中になって読んでいらっしゃるから、薫の君にはお気づきにならない。
そこへちょうど夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様も近づいていらっしゃった。

<大臣様に恋文を見つけられ、嫌味(いやみ)でも言われてはお気の毒だ>
薫の君はわざと(せき)(ばら)いをなさる。
宮様がさっとお手紙を隠されたのと同時に、大臣様がお顔を(のぞ)かせなさった。
驚いて上着の首元を整えていらっしゃると、大臣様はひざまずかれる。
「私は自分の住まいの方へ下がらせていただきます。ここしばらく中宮様のご体調は落ち着いておられましたのに、やはり妖怪(ようかい)仕業(しわざ)でしょうか。恐ろしいことでございます。有名な僧侶(そうりょ)をすぐに呼びにいかせましょう」
そうおっしゃって、忙しそうに夏の御殿(ごてん)へ向かわれた。
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