野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
夜が()けて貴族たちは退出なさる。
夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様は匂宮(におうのみや)様のお迎えにいらっしゃった。
せっかく六条(ろくじょう)(いん)にお越しなのだから、大臣様の夏の御殿(ごてん)にお泊まりいただかないとね。
夏の御殿には、大臣様の姫君(ひめぎみ)(ろく)(きみ)がお住まいだもの。
婿君(むこぎみ)をあがめるようにして御殿までお連れなさったわ。

(かおる)(きみ)は遅れて退出なさった。
(とも)が出発の準備をする間に、先ほどのお使者(ししゃ)をお呼びになる。
「話の続きを聞かせよ」
「今朝、宇治(うじ)山荘(さんそう)(あや)しげな男を見かけました。手紙を女房(にょうぼう)に渡しておりましたので、『誰の使者だ』と尋ねますと、なんとなく(うそ)くさいことを申します。返事を受け取って帰っていくのを、私の供の少年に尾行(びこう)させました。するとその男は、匂宮様のご自宅である二条(にじょう)(いん)に入り、大内記(だいないき)様に返事の手紙を渡していたそうでございます」
「その返事の手紙というのは、どのようなものであった」
「赤い紙の、とても美しいものでございました」

あの手紙だ、と薫の君は思い当たられる。
<間違いない。先ほど宮様が大内記から受け取っていらっしゃった手紙だ>
気の()く使者だとお思いになるけれど、お供がたくさんいるところなので、それ以上何もおっしゃらない。
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