野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
<私が軽蔑(けいべつ)して捨てれば、必ず匂宮(におうのみや)様がご自分の恋人になさるだろう。しかし宮様は、先々まで長く世話してやろうとお考えになる方ではない。しばらく遊び相手になさって、()きたら姉君(あねぎみ)のところに女房(にょうぼう)として差し上げなさる。(おんな)(いち)(みや)様のお住まいには、そういう人が二、三人いるというではないか。あの姫が女房になったらしいと聞くのはつらい>
簡単にお捨てになることはできない。
<私が浮気を知ったことをほのめかしたら、姫はどういう態度を取るだろうか>
と、お手紙をお書きになった。

あの気の()くお使者(ししゃ)をお呼びになる。
<『(あや)しげな男が、宇治(うじ)山荘(さんそう)で受け取った手紙を大内記(だいないき)に渡した』と申していた。しかし、そのあと大内記が匂宮様にお渡ししたことは知らないはずだ。手紙のやりとりをしているのは大内記だと勘違いさせたままの方がよい。この使者にまで宮様の恋が知られては恐れ多い。
大内記の相手は山荘の女房ということにしてもよいが、それなら私がこれほど気にするのは不自然だ。気の利く男だから、その(うそ)は見抜かれるだろう>

浮舟(うきふね)(きみ)をご自分と大内記が取り合っている、というふうにお話しになる。
「大内記は、この屋敷の事務長の婿(むこ)ではなかったか」
「さようでございます」
「しっかりした妻がいるというのに、私の宇治の恋人にもちょっかいを出しているのか。困ったことだ。しかしまぁ、私の恋人だと公表(こうひょう)しているわけでもないからな。何も知らず、ちょっとよさそうな女がいると興味を持ったのだろう」
わざとため息をおつきになると、
「次からは向こうの使者に見つからないよう気をつけよ。大内記などと女を取り合っていると(うわさ)になったら馬鹿(ばか)馬鹿(ばか)しい」
とおっしゃった。

お使者は思い当たることがある。
<そういえば大内記様は、薫の君や宇治のことを事務長様にお尋ねになっていた>
でも、余計なことを申し上げるのは遠慮(えんりょ)する。
薫の君も身分の低い人に事情を教えるおつもりはない。
それ以上何も言わせない雰囲気でお使者にお手紙を預けると、山荘へ出発させなさった。
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