野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
お手紙をそのまま返してしまって以来、薫の君から新しいお手紙は届かない。
右近がやきもきしていると、近くの薫の君のご領地から老人がやって来た。
荒々しくて田舎くさい年寄りよ。
「山荘の警備を薫の君から一任されている者ですが、こちらの女房に申し上げたいことがあります」
がらがら声で言うのを聞いて、あわてて右近が対応に出た。
他の女房には聞かせない方がよい話かもしれない。
「薫の君に呼ばれまして、今朝都へ上り、今戻ってきたところです。薫の君はご機嫌がお悪うございました。『山荘の女房のところに、深夜怪しい男が通っているようだ。不用心にもほどがある。そなたは何も知らなかったのか』と仰せになりました。
『この歳では体も動かず、私自身が警備に出てはおりません。ですが、頼りになる男たちを派遣し、しっかり働かせております。もしそのような不届きなことが起きていれば、必ず私に報告があったはずでございます』とお答えしましたが、薫の君のご機嫌は直りません。『これまで以上に厳重に警備せよ。問題が起きたら、そなたには重い罰を与える』とおっしゃいましたから、私は恐れ入ったのです。
何か心当たりはおありですか。なければよろしいが、今後はいっそう夜間の警備を厳しくいたしますから、あなた方もそのつもりでおられませ」
右近は恐ろしくなって返事もできない。
真っ青な顔で女君の部屋に戻ると、
「私の心配していたとおりになりました。薫の君はすっかり知ってしまわれたのです。それでお手紙もないのでしょう」
と嘆く。
話をなんとなく聞いた乳母はよろこんでいる。
「まぁ、ありがたいご配慮だこと。このあたりは盗賊が多くて危ないところなのに、夜の警備が手薄だと思っていたのですよ。最初のうちは真面目にやってくれていたけれど、近ごろは代理を寄越す人ばかりで。頼りにならない男たちが起きているのか寝ているのか、ろくに見回りもしないのだもの」
薫の君の深いご愛情だと浮かれているわ。
右近がやきもきしていると、近くの薫の君のご領地から老人がやって来た。
荒々しくて田舎くさい年寄りよ。
「山荘の警備を薫の君から一任されている者ですが、こちらの女房に申し上げたいことがあります」
がらがら声で言うのを聞いて、あわてて右近が対応に出た。
他の女房には聞かせない方がよい話かもしれない。
「薫の君に呼ばれまして、今朝都へ上り、今戻ってきたところです。薫の君はご機嫌がお悪うございました。『山荘の女房のところに、深夜怪しい男が通っているようだ。不用心にもほどがある。そなたは何も知らなかったのか』と仰せになりました。
『この歳では体も動かず、私自身が警備に出てはおりません。ですが、頼りになる男たちを派遣し、しっかり働かせております。もしそのような不届きなことが起きていれば、必ず私に報告があったはずでございます』とお答えしましたが、薫の君のご機嫌は直りません。『これまで以上に厳重に警備せよ。問題が起きたら、そなたには重い罰を与える』とおっしゃいましたから、私は恐れ入ったのです。
何か心当たりはおありですか。なければよろしいが、今後はいっそう夜間の警備を厳しくいたしますから、あなた方もそのつもりでおられませ」
右近は恐ろしくなって返事もできない。
真っ青な顔で女君の部屋に戻ると、
「私の心配していたとおりになりました。薫の君はすっかり知ってしまわれたのです。それでお手紙もないのでしょう」
と嘆く。
話をなんとなく聞いた乳母はよろこんでいる。
「まぁ、ありがたいご配慮だこと。このあたりは盗賊が多くて危ないところなのに、夜の警備が手薄だと思っていたのですよ。最初のうちは真面目にやってくれていたけれど、近ごろは代理を寄越す人ばかりで。頼りにならない男たちが起きているのか寝ているのか、ろくに見回りもしないのだもの」
薫の君の深いご愛情だと浮かれているわ。