野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
すっかり夜が()けていく。
犬が()()なく()えるのを(みや)様のお(とも)が追い(はら)う。
山荘(さんそう)の方からは荒々しい男たちの声が聞こえる。
「火の用心、火の用心」
と言いながら見回りをしていて、今にもこちらに近づいてきそうなの。

宮様はお心が落ち着かず、泣く泣くお帰りになる。
「またあの山道を帰っていこう。途中のどこで死んでもかまわないような気がする」
そなたも早く戻るがよいと、侍従(じじゅう)を帰らせなさった。
切なそうなご様子が上品でお美しい。
夜の(きり)湿(しめ)ったお着物から、すばらしい香りが(ただよ)っている。
侍従は泣きながら山荘に戻ってきた。
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