野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
都の母君(ははぎみ)からも心配する手紙が届く。
「夜中に見た夢が不吉(ふきつ)で、お祈りの手配などをしていたら、そのあと眠れなくなってしまいました。たった今うとうとしたところ、今度はあなたが亡くなる夢を見たのです。恐ろしくて目が覚めました。
しばらく用心してお暮らしなさい。そちらは(さみ)しい山荘(さんそう)だから、妖怪(ようかい)も入りこみやすいでしょう。(かおる)(きみ)のご正妻(せいさい)嫉妬(しっと)なさって、妖怪が現れているのかもしれません。

まだご体調がよくならないと聞きましたから、悪い夢を見て、いろいろと心配しています。そちらに行ってあげたいけれど、家では出産の近い娘が苦しんでいるのです。そばを離れてはいけないと(かみ)がうるさくて。とにかく、まずは山荘の近くのお寺にお祈りを頼んでください」
手紙には、お寺への依頼(いらい)(しょ)や、お祈りしてもらうために寄付(きふ)する品物が()えられていた。
<もう死ぬつもりなのに、母君はこんなに私の()を思ってくださっている>
なんという悲しいことだと思う。

母君からの使者(ししゃ)に依頼書や品物を持たせると、お寺に行かせた。
戻ってくるまでの間に女君(おんなぎみ)は返事を書く。
言いたいことは多いけれど、はっきりとは言いにくくて、
来世(らいせ)でまたお会いできましょう。母君もそうお考えください。夢などにおろおろなさらないで」
と書いた。

お寺ではお祈りが始まったらしい。
(かね)の音が風に乗って山荘まで届く。
浮舟の君は横になってしみじみと聞いている。

夜になると、お祈りが済んだという報告書を持って使者がお寺から戻ってきた。
鐘の音を聞きながら思ったことを、浮舟の君はその報告書の(はし)に書きこむ。
「風よ、消えていく鐘の音と一緒に、私の泣き声を母君に届けておくれ。私の命もまもなく消えるとお伝えして」

使者は、
「もう遅いので、今夜はこちらに泊まって明日の朝出発します」
と言う。
浮舟の君は母君への返事と報告書をそろえて置いておく。
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