ひとつの月とふたつの太陽〜正しくない恋のやり方〜
そんな彼に、私は、迷わず駆け寄った。

殴られた上級生のことなんて目に入らない。
それよりも、旭が心配で仕方なかった。

「大丈夫!? 殴って……手、痛かったよね?」

その言葉に、旭は目を見開いた。

「……なんで」

「え?」

「俺のこと……こわくないの?」

訳がわからなかった。

(えっ……なんでそんなこと聞くの?)

「なんで? 全然こわくない。ヒーローみたいですっごくカッコよかった。守ってくれてありがとう、旭。」

笑顔でそう伝え、ギュッと赤くなった手を握った。

その瞬間。

守られた嬉しさと、私のために見せてくれたあの無慈悲な行為を目の当たりにした興奮が、胸の奥で、どろりと混ざり合い、

どう考えても普通じゃないくらい、心が高鳴った。

(……あ)

(どうしよう)

(私、旭のこと……大好きになっちゃった)

はっきり自覚した瞬間、
世界が、やけに鮮やかに見えた。

胸の高鳴りも、息苦しさも、全部が心地よくて。

これが、"恋"なんだって思った。

そんな私とは裏腹に、
旭は、複雑そうな表情を浮かべたまま、俯いていた。

その違和感に、私は気づけなかった。

こうして。

この日、この瞬間。

私の、堤旭への――

報われない恋と、歪んだ執着は始まった。
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