ひとつの月とふたつの太陽〜正しくない恋のやり方〜
会議が始まる。

営業部の代表として、柳燈璃が今月の実績と顧客の傾向を報告していく。

「最近は、中小企業からの問い合わせが増えています」

柳さんの声は低く、落ち着いていて、張りすぎてないのによく通る。
自然と耳が向いてしまう、聞き心地のいい声だった。

「人手不足で、
誰がどの案件を担当しているのか分からない。情報がバラバラで管理できていない――そういった悩みを持つ顧客が多いですね」

企画部長が頷き、問いを投げた。

「じゃあ、次はどう売る?」

柳さんは一瞬も迷わず答える。

「機能の多さより、『これを使えば管理が楽になります』。
『仕事の属人化を防げます』――こういった実践に直結するメリットを前面に出した方が、反応が良いです」

会議室に、納得の空気が広がる。

女性社員たちは、
柳さんの一言一言にうっとりと感心したように視線を向けている。

けれど、私は違った。
他の女性社員のように魅了されることもなく、淡々と資料と照らし合わせながらメモを取る。

かっこいいとは思うけど、正直、柳さんに興味なんて微塵もない。

だから、そんな私に、柳さんがさりげなく視線を向けていたことなんて、私には気づけるはずもなかった。

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