ひとつの月とふたつの太陽〜正しくない恋のやり方〜
「ねえ、柏木さんってさ」

「……?」

続きを待つと、柳さんは一瞬だけ何かを考えるような間を置いてから、口角を上げる。

「いや。何でもない」

含みのある笑み。

意味ありげなのに、何も言わない。
その表情に、私は思わず首を傾げた。

(……やっぱり、不思議な人)

爽やかで、人当たりがよくて、完璧な営業スマイル。
なのに、時々――ほんの一瞬だけ。

目が、笑ってない、気がする。

そんな違和感が、胸の奥をかすめた。

「すみません」

私は軽く一礼して、話を切り上げる。

「このあと、ちょっと仕事が立て込んでて……」

今日は、定時で上がると決めている。
旭との約束があるから。

「そっか。忙しいよね」

柳さんはあっさりと引き下がり、にこやかに手を振った。

「じゃあ、また」

「はい。失礼します」

その場を離れながら、小さく息を吐いた。

(今日は、絶対、定時で帰る……!)

そう自分に言い聞かせて、私は足早に自分のデスクへ戻った。

その背後で。

柳燈璃は、去っていく私の後ろ姿を、静かに見送っていた。

――さっきまで浮かべていた笑顔とは、少し違う目で。

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