ひとつの月とふたつの太陽〜正しくない恋のやり方〜

行き場のない気持ち

定時のチャイムが鳴った瞬間、私は迷わずパソコンを閉じた。

エレベーターを降りて、会社を出ると、少しだけ空気が軽い。
スマホを見ると、旭からのメッセージが届いていて、口元が緩んだ。

《おわった?》

《おわった!》

《了解。駅で待ち合わせな》

そのやりとりだけで、嬉しくて胸の奥が、きゅっとした。

* * *

店は、駅から少し歩いたところにある、気取らない居酒屋。
暖簾が揺れて、焼き物の匂いがふわっと漂う。

「おつかれ」

「お疲れ様」

向かい合って腰を下ろし、まずはビールで乾杯する。
グラスが軽く触れ合い、澄んだ音が静かに響いた。

「こうやって飯食うの、久しぶりだな」

「……うん。そうだね」

視線を合わせて、自然に笑う。
その何気ないやり取りだけで、胸の奥がじんわりと温かくなった。

(はぁ……幸せ。この時間が、ずっと続けばいいのに)

そう思ってしまう自分を、必死に押し込める。
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