ひとつの月とふたつの太陽〜正しくない恋のやり方〜
すると、突然、旭は少し身を屈めて、耳元で囁くように声を落とす。

「なあ……今日、夜、あいてる?」

「えっ?」

「飯、いかね?」

「っ」

私だけに聞こえる低い声。
近い距離に一瞬、思考が止まった。

(旭と、食事……?え、行きたい!)

心の中では即答。
むしろ前のめり。

でも、同時に浮かぶ記憶。

(けど、前、私とご飯行ったら、彼女に何か言われたって言ってたな……)

期待と不安がせめぎ合い、口から出たのは建前だった。

「……でも、彼女さんに悪くない?」

探るように視線を合わせると、旭は罰が悪そうに一拍置いて、言った。

「あー……別れた」

「えっ!?」

思わず声と共に、椅子が引かれてきいっとなる。

周囲の視線が、少しだけ集まり、慌てて会釈した。

(え……ほんとに?
旭、フリー?
今回の彼女、結構長かったよね?)

――やった!!

胸の奥で盛大なガッツポーズ。
でも、すぐに自分にストップをかける。

(ちがうちがう!
別れたばっかりで落ち込んでるはず!
喜び、顔に出すな私!!)

表情を必死に取り繕いながら、戸惑ったふりで聞く。

「な、なんで……?」

すると、旭は苦笑した。

「まぁ……色々あんだよ。そこも含めて相談のって欲しくて。で、結局飯行く?行かない?」

「行きたい…!」

素直に答える。
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