ひとつの月とふたつの太陽〜正しくない恋のやり方〜
そんな私に軽く笑って旭は頷いた。

「ん。じゃあ、仕事終わったら連絡する。残業すんなよ?」

昔と同じ、冗談交じりで優しい声。視線も変わらず穏やかで。

「わかった」

思わず、口元がにやけてしまう。

そのとき、背後から明るい声が飛ぶ。

「あっ、堤さんだ」

「先日は、ありがとうございました!もし時間あれば、今日の資料も確認してもらえると助かります」

営業企画部の女性社員数人が、同時に声をかけている。

「ああ、はい」

そんな社員達に、冷静の返す旭。
さすが経理部のエース。
落ち着いてて、処理も的確。 

(……これでフリーって知られたら、また一気に狙われるんだろうな)

少し顔を赤らめ話す数名の女性社員の様子を見つめながら、私は心の中でそっと笑う。

「そろそろ、部署に戻りますね」

旭はそう言って話を切り上げたあと。

私の方に視線を向けた。

「あ と で な」

そうやって、口だけを動かした後、
軽く手を上げ、他の社員には見せない笑みを私だけに見せる。

胸の奥が、じんわり熱くなる。

広い背中、目を引く長身。
去っていくその後ろ姿に、自然と息をつく。

(……はぁ……好き。やっぱり、大好き)

昔から見てきたはずなのに、この気持ちは色褪せることはない。


私は幼い頃からずっと、
堤旭に恋している――。
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