ひとつの月とふたつの太陽〜正しくない恋のやり方〜
* * *
私と旭は幼馴染。
出会いは、小学四年生の春まで遡る。
私の家の隣に、一人の男の子が引っ越してきた。
初めて見た瞬間、思わず息を呑んだ。
黒く短い髪、すっと通った鼻筋、凛とした口元。
鋭い目つきで、どこか近寄りがたい雰囲気を纏った男の子。
(わぁ……かっこいい子だな……)
パッとそう思った。
「隣に引っ越して来た堤です」
旭のご両親は、柔らかい笑顔の、優しそうなご夫婦だった。
「ほら、旭くん。挨拶しよっか?」
そうお母さんから言われた旭と視線が交わる。
けれど、すぐにふいっと逸らされた。
「旭くん?」
お母さんが困ったように笑う。
けれど、言い淀んでなかなか言葉を発しない旭。
(人見知りなのかな…?)
そう思った私は、自分から笑顔を向け、話しかけた。
「はじめまして…!柏木月菜です。よろしくね、旭くん」
思い切って、その手をぎゅっと握った。
その瞬間、旭は目を見開いた。
握られた自分の手と、私の手をじっと見つめる。
(あ…やりすぎたかな?)
振り払われるかもしれない。
そう思ったけれど――旭は、手を離さなかった。
しばらく沈黙が落ちてから、
「……よろしく」
小さく、ぶっきらぼうな声。
でもその耳がほんのり赤く染まっているのが見えて。
なぜか、その瞬間の旭の表情は、後になってもずっと心に残っている。