きみが春なら

Side.R

何故だか泣きそうな顔をして黙りこくる妻は、俺のマントを握りしめる。
もう答えは返ってきそうにない。
天を仰ぎ、ため息を吐いた。

「……ん。」

少しだけ腕を広げるとハルは大人しくやってきた。
久しぶりに抱きしめた体は相変わらず華奢で、下ろした髪が甘く香る。

── こんなに口下手で。よく今まで客商売が務まっていたものだ。

半ば呆れつつ、まぁベラベラうるさい女よりは余程いい、とも思う。
どうやら俺の身を案じているらしい事も何となく伝わってきた。

「おかしな女だな。俺の事が憎くないのか?」
「わからない、けど……無事に帰ってきてほしいって。思う」

俺の背にまわった腕に、僅か力が込められた。

「……」

慌てて仏頂面をつくる。
動揺を悟られたくなかった。

「掴みどころのない奴だ。本当に手がかかる」
そのまま唇を塞いだ。

前より抵抗しなくなった、とふと思う。
そう口から出そうになったが、恥ずかしがって逃げるだろうと予想しやめておいた。もう少し柔らかい唇を味わっていたい。

赤く染まる顔を見るうち、俺の体も熱を帯びていく。
ネグリジェの肩を落とし、素肌に指を滑らせた。

「ま、って」

俺の手を掴むハルの瞳。

「無理だ。」

欲しい、と思った。
今、この場で。この女が欲しかった。

ベッドまで手を引こうとした時、
花火の音が部屋に響いた。


「……出陣の合図だ。」

内心で舌打ちしながら、はだけた胸元を直してやる。
「続きは次にとっておく」
茹でられたかと思うほど赤い妻の顔が可笑しかった。

「死ぬようなヘマはしない。良い子で待っていろ」

頬を両の掌で包み込むと、ハルは弱く微笑んだ。
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