きみが春なら

Side.M

「全く、どこ行ったんだ?」

戦へ向かうはずのロレンツォ王子が姿を現さないまま、出発の時間がきてしまった。
庭には兵も馬もすっかり揃い、合図の花火まで上げ終わっている。
王子を探しに深夜の廊下をひた走る。

「あ!」
視界の端に見慣れた服が映り、ほっとして立ち止まる。
「ロレンツォ様。こちらでしたか」
声をかけると、王子は部屋の扉を閉めながら顔を上げた。

「皆の準備が整いました。出発するだけです」
「……ん。」

ドアノブを握ったまま。王子は何故か扉にごん、と額を押し付け俯いた。
近付いてみてわかったが、彼が今し方出てきたのはハルの部屋だ。
「どうか?」
「いや」
自身の口元に手を当て、何か考え込んでいるように見える。
戦に重きを置いているロレンツォ王子は、出陣前いつも活力に満ちているのに。
覇気のないその姿に違和感を覚えた。

「何でもない。留守を頼んだ」
しかし足早に俺の横をすり抜けた時には、もういつも通りの顔つきで。

「……」

出陣の際、王子が時間に遅れた事など過去一度も無かった。
胸のざわつきに蓋をし、ハルの部屋の扉を見つめた。
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