きみが春なら

Side.R

夜闇を切り裂きながら、多数の兵を引き連れ馬を走らせる。

出発が遅れた分、集中せねばと自分に言い聞かせても。
先程のハルの体の感触と髪の香り。
『無事に帰ってきてほしいって思う』。
そしてその言葉を、馬上で何度も思い返してしまう。

「……なんだ、」
なんだ?これは。

抱いた事のない感情がこみ上げてきて、戸惑いを隠せない。
どれだけ早く馬を走らせても振り切れなかった。

── 寄ってくる女なら、昔から掃いて捨てるほどいた。

どうせ俺の外見と権力にしか目が向いていない奴らだ。欲しいのは次期王妃の座と、贅沢三昧の生活だけだとわかっていた。
大抵は無視し、気まぐれに抱いた。
一人の女に執着する意味など考えられなかった。

恨まれているとばかり思っていたのに。
あいつは何故、あんなに安心したような顔で笑うんだ?

「ロ、ロレンツォ様」
真横を並走している兵長から声をかけられハッとする。
「後方が遅れています。少々速度を落とされては」
「ああ」
我に返り、慌てて手綱を引いた。

……戦の前に心を乱している場合ではない。
体内でくすぶる熱を無理矢理消して、再び馬を走らせた。
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