きみが春なら
冷たい声に、皆が息を呑む。子猫はジュリの足元にずっと擦り寄っている。
「聞こえなかったの?殺しなさいと言ったのよ」
「そ、そんな」
躊躇うジュリの態度に、女王様は

「この……っ、」
近くに飾ってあった大きな花瓶を手に取った。

── うわ、

「だめ……っ!」

俺より先に反対側の柱から飛び出してきたのは、ハルだった。
彼女はジュリを庇い、花瓶に入っていた大量の花と水を頭からもろに被った。周りで悲鳴があがる。

「ハ、ハル様!」
「あなた……」

ハルはジュリを抱きしめたまま女王様を見た。全身ぐっしょり濡れて髪からぼたぼた水が垂れている。腕にもドレスにも花が張り付いている。

「王族としてのプライドが無いの?いつまでも町娘気分ね。侍女なんか庇って」

一瞬目を丸くした女王様は
やがてふっ、と笑った。

「そうね。あなた……孤児だったものね?」

完全に馬鹿にした口調で。女王様は更に「お友達は大切よね?」と続けた。

「世継ぎさえ産んでくれればそれでいいと思おうとしたけれど。考えが改まったわ。まともな家庭で育っていないあなたに、子供が育てられる訳がないもの」

これ以上聞いていられなかった。
明らかに傷ついているハルの顔を見た時、強い怒りが湧きあがった。

「女王陛下!」
思わず口を挟んだ俺の真横を
すっ、と誰かが通り抜ける。

── え?

見慣れた背中には
声もかけられないくらい鋭い殺気が滲んでいた。
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