きみが春なら

Side.H

「す、みませ……ハル様……」
着替えを終え濡れた髪にドライヤーをかけている最中も、ジュリはずっと泣きながら謝り続けている。

「私のせいで。女王様にあんな、ひどい事……」
「ジュリのせいじゃないわ。私が勝手にやったの。泣かないで」

女王様が花瓶を手にした瞬間、自然と体が動いていた。
ジュリが水をかけられなくて良かった、と思う。慰めているうちに髪も乾いた。

「……本当だもの。孤児だっていうのは」

スイッチを切ったばかりのドライヤーを手に呟くと、ジュリはますます泣きながら首を振る。
その時。ノックも無しに突然部屋の扉が開いた。

振り返るとロレンツォ様がずかずか部屋に入ってきた。
ものすごく不機嫌そうな表情のまま、私の目の前でぴたりと足を止める。

「あ、あの」
面倒を起こすな、と怒られるのだと思った。先に謝ろうと口を開きかけた時。

「……疲れた」

目を閉じた彼はそう一言だけ呟き、前のめりに倒れ込んできた。

「あ……っ!」

支えようとしたけれど重さに耐えきれず、尻餅をついてしまった。ジュリがきゃあ、と声をあげる。
私の腕の中で気を失っている王子様の、体の熱さに驚いた。

「ロレンツォ様!」

何度名前を呼んでも、彼は苦しそうに呼吸を繰り返すばかりだ。前髪が汗で額に張り付いている。

「どうしよう、すごい熱……ジュリ。だ、誰か呼んできてくれる」
「はい!」
ジュリは走って部屋から出ていった。
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