きみが春なら

Side.R

開いた目に、自室の天井が映った。
「……」
いつ部屋に戻ったのか。頭痛が邪魔して上手く思い出せない。
鉛のように重たい体を何とか起こした時。

「あ」
扉が開き、ハルが入ってきた。
「目が覚めたんですね。良かった」
いつも寝間着にしているネグリジェ姿だ。夜になっている事に初めて気付いた。窓の外には漆黒の闇が広がっている。

「りんごすってきたんですけど。召し上がりますか」
「……あぁ」

ハルはベッドまで歩いてきて皿を差し出すと、俺の肩にガウンをかけた。冷たいりんごが乾いた喉に滑り落ちていく。
「久しぶりに体調を崩した」
「異国で風邪をもらったんだろうって。お医者様が」
そうか、と返事をする。

「お前の顔を見たら。何だか力が抜けた」

少し離れたソファに座った妻は、淡く微笑んだ。やがて空になった皿を手渡すと
「もう少しお休みになって下さい。」
そう言い俺に背中を向ける。

「ハル」
ぼんやりした意識のまま呼び止めた。ベッドから足だけ下ろす。
「来い」
< 179 / 183 >

この作品をシェア

pagetop