きみが春なら
ハルは一瞬きょとんとした後、視線を彷徨わせた。
「え」
「いいから来い。命令だ」

おそるおそる隣に腰かけようとしてきたが、無理矢理太腿に座らせた。

「華奢すぎる。もう少し肉付きのいい女が好みだ」
サテン生地に掌を滑らせ腰を抱く。
「もっと太れ。たらふく飯を食え」
「は、はい」

我ながら正気を疑う。
でも今なら、すべてを熱のせいにも出来る。

「ふふふ、」
ハルが小さく吹き出した。
「なんだ」
「そんな風に言われると思わなくて。王子様もたくさん食べて、早く治して下さいね?」

城を離れている間。
この赤ん坊みたいな笑顔が無性に恋しい夜があった。

「……あぁ。」

目の前にある胸に頭を付ける。
ふゆんと柔らかなそこから、心臓の音がする。
優しく髪を撫でられながら目を閉じた。

── 何だ、この腑抜けようは?
自分で自分に愕然とする。
思考が完全に停止していた。
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