冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~
その夜、紫乃は帰宅した父親に呼ばれた。医療品の製造卸をしている父の会社は、軍との繋がりも深い。
「縁談の件は、聞いたか?」
「……はい」
紫乃は、静かに頷いた。
「篁家は由緒ある家柄だ。目が不自由な紫乃でもいいと言って下さってる。こんな良縁、二度とないぞ」
「……はい」
父はそれ以上何も言わず、紙巻き煙草に火をつけた。
フゥ~という息づかいと共に、苦みのある香りが紫乃の鼻腔を掠めた。
父親がシガレットを吸う時は、機嫌が悪い時だ。
「では、部屋に戻らせていただきます」
紫乃は静かに部屋を後にした。夜盲症の紫乃は、壁伝いに自室へと戻る。
(父にとったら私は、会社経営を有利にさせるための、ただの道具にすぎぬのだと、知っている。寂しがって欲しいだなんて、思う方が間違ってるわね……)