冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~

 紫乃は眼鏡をかけていないせいで、勇心の顔がぼんやりとしか見えない。
 けれど、大柄な男性の気配といつも纏っている香りで夫だと気づく。

「も、申し訳ありませんっ……」

 寝台の上で慌てて正座し直すと、「もう遅いから、ゆっくり休め」とだけ返ってきた。その言葉に『夫に運ばせてしまった』という罪悪感と、『飽きられてしまったのでは……?』という不安に駆られた紫乃は、無意識に勇心の軍服の裾を掴んでいた。

「……どうした?」
「あっ……の、……その……」

 上着が引っ張られ、勇心は振り返った。
 引き留めてしまった紫乃は気が動転し、次の言葉が出て来なくて、視線が泳ぐ。

(これは……誘われているのか?)

 頬を赤らめる妻を視界に捉え、勇心は紫乃の手を優しく掴み返す。そして引き寄せ、抱きしめた。
 距離が縮まったことで、紫乃の視力でもはっきりと勇心の顔が見えた。
 自然と絡み合うお互いの視線。
 心の奥を読み解くような勇心の熱のこもった眼差しに、紫乃は恥ずかしくなってしまい、ぎゅっと目を瞑ってしまった。

(……了承と、取っていいんだよな……?)

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