冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~

 六月上旬。篁家の屋敷内は静まり返り、夜の帳が静かに降りていた。
 寝台に横たわる紫乃は、布団の中で一枚の紙を胸に抱きしめている。

 数日前に届いた、夫からの電報。
『ニンムカンリョウ キンジツチュウキカンヨテイ シンパイムヨウ ユウシン』

(……もうすぐ、あの人が帰ってくる)

 待ちわびていた連絡だから、発狂したいほど嬉しさがこみ上げている。
 けれど、いつ帰ってくるのか、不確かな部分もあるから、不安が消えたわけではない。そわそわして寝ずに待っていたら、それこそ、屋敷の皆に心配をかけてしまう。
 でも、胸の奥から溢れてくるこの想いだけは、どうしても抑えきれなかった。

 うつらうつらとまどろみかけた、その時。廊下の奥から、かすかな足音が聞こえてきた。

(……誰かしら?)

 夜更けの屋敷に似つかわしくない、けれどどこか懐かしい気配。
 本来なら、規律に鍛えられた軍人らしい、真っすぐで迷いのない足音のような。
 けれど、今宵は違う。音を立てまいとするように、そろり、そろりと慎重に踏みしめる足取り。
 それでも──その歩幅、その間合い、その気配。紫乃には、手に取るようにわかった。

(勇心様だわ……!)

 
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