冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~
次の瞬間、紫乃は夜着のまま寝台を飛び出していた。灯の落とされた廊下は暗く、履物を履くことすら忘れている。
しかも、名家の奥方たる者、どんな時でも慎ましかやかにしなければならない。だが、そんなことはどうでもよかった。
今の紫乃には、夫の無事を自分の目で確かめたい……ただ、それだけ。一心不乱に、その人のもとへ駆けていく。
廊下の奥に、月明かりに照らされた愛おしい人の姿が見えた。
「勇心様っ!」
勢いそのままに、紫乃は跳ねるように飛びついた。身長差のある彼の胸元に、両腕を回してしがみつく。勇心は条件反射のように、妻を抱き留めた。
そして、予想もしない妻の行動に、思わず息を呑む。
けれど、腕の中に飛び込んできたぬくもりと懐かしい香りに、無意識に顔が綻んでいた。
「おかえりなさいっ、勇心様」
「……只今、戻りました」
勇心は、紫乃の体を支えたまま、そおっと膝を折るようにして、ゆっくりと彼女の足先を床に着かせた。
長身の勇心を見上げる紫乃の瞳は潤んでいて、今にも涙が溢れ出しそうなほど。そんな紫乃の頬に手を添え、勇心は顔を近づける。