冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~
 
 勇心は素足の妻を大事に抱きかかえ、屋敷の静けさを壊さぬよう、足音を忍ばせながら廊下を進んだ。
 月明かりが硝子窓越しに淡く差し込み、二人の影を長く引き伸ばしている。

 勇心の部屋に入ると、几帳面な性格が滲む空気が、何一つ変わらず、そこに漂っていた。寝台の上には、いつ帰ってきてもいいようにと、勇心の寝間着が丁寧に畳まれている。

「……変わってないな」

 勇心がぽつりと呟き、上着を脱ぐと、紫乃はそれを受取り、衣紋掛けに掛けた。

「お風呂、もう少しで沸くと思いますので……」

 振り返った紫乃の視線の先には、シャツのボタンを外している夫の姿があった。
 一つ、また一つと外されていく。紫乃は、その広い背中に抱きついた。

「……心配かけて、すまなかった」
「いえ、ご無事であれば、それで……」

 軍医なのだから、命令は絶対だ。それが仕事なのだから、『行かないで』とは言えない。

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