引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~5
 主人が運ばれたことを、どこかで聞いたのだろう。
「……小鳥姿の時は、心獣としての能力が足らなすぎるな」
 思わず口にしたジルヴェストに、護衛騎士たちも口を閉じて納得のうなずきをしていた。

 ◇◇◇

 エレスティアは時間が飛ぶように過ぎるのを感じた。
 自分は魔法師とも違うようなのでどぎまぎしていたが、つわりは皇国で常用されている魔法薬が効いてくれて安心した。身体に負担のないよう設定され、効く時間は短いので休憩は多くなる。
 休憩が多くなってしまうのは、ごはんがそう食べられないこともエレスティアの場合は影響しているだろう。
 もともと小柄で細身だ。料理長たちも心配して、できるだけ食べられそうなもので、栄養を取らせられるようにと毎日工夫をこらしてくれている。感謝しかない。
 公務の一部をジルヴェストが肩代わりしてくれることになったが、祝いの知らせもたくさん届いて忙しい。
 外国からの『皇妃』に向けられた祝辞は、今後の国交を考えてのものだろう。
 エレスティアもこれからの関係を考えれば、向こうに気持ちのいい返事をしたいと、代筆を入れずに自分で一通ずつ返信をしていた。
 祝いの手紙や品が多く届いていることを知って、父のドーランや、二人の兄は手紙は書かず、時々顔を出して近況を口頭で直接言いながら手伝いと助言をしてくれる。まだ顔を合わせたこともない他国の王族や要人の人柄などの情報を、実際知っている人から聞けるのは有難い。
 安定期まで、転移ゲートをくぐっての移動はしないことが決定していた。
 今や気軽に話せる友人となっているファウグスト王国の第四王子であり、今やエンブリアナ皇国との国交代表責任者となっているエルヴィオ・ファウグストには、しばらく行けそうにないとエレスティアから手紙で知らせた。子と母体を優先して当然だという返事が届いた。
【しばらくは私のほうから訪ねます。その時には、面白い話と一緒に本も持っていけるようにします】
 彼は、古代王ゾルジアに関する本の写しを渡す役目も担っていた。それは秘密裏にされていることだ。少しは負担が軽くなるよう、そして勘ぐられないようエレスティアも時々訪ねるようにしていたのだが、何かしら策は考えるとのことで、今回はお言葉に甘えることにした。
 古代王たちと同じ魔力を持って生まれたが、いまだ謎も多いその特異性が我が子にいくことがない。そう分かり、エレスティアは安心して懐妊祝いへの返信作業や公務に集中できていた。とはいえ――
「ジルヴェスト様が、少しかわいそうなのよねぇ……」
 ぽかぽかとした日差しの暖かさに、つい眠くなってしまうのは妊娠のためだろうか。眠気覚ましに両腕を伸ばしたエレスティアは、便箋から視線を外したところで、思わずつぶやいてしまった。
 執務机の向こうにある応接席には、一人残ったアイリーシャが座っている。彼女は残りの手紙の開封作業を、もくもくとこなしていたところだ。
「かわいそう、ですか……」
 手を止めたアイリーシャは、疑問を覚えた顔でしばし考える。
「元気がないことが心配なのです」
「元気がない……うーん、普段からかなり甘えさせているほうでは?」
「そう、でしょうか」
 確かに、できるだけ甘やかそうと決めているのは事実だ。
 エレスティアが常にジルヴェストのためになりたいと彼のことを考えるのは、ジルヴェストがそれだけがんばっているからだ。皇帝という立場は苦労も多いし、忙しい。
 本来、皇妃という業務はもっと過酷なイメージだ。
 ジルヴェストは優しいし、エレスティアが皇妃としてできていることは、本来の皇妃という立場よりもっとずっと少ないのではないかという気がしている。
「できる限りのことはして差し上げているのですけれど、『元気全開っ』、という感じにはならないのです。若干しょんぼりしているのかな、と感じています」
 昨夜も思い付く範囲内で甘やかしてみたのだが、いつもみたいに復活する感じはない。
「エレスティア様のおっしゃる『元気全開になった皇帝』の瞬間が、まったく想像つかないのですけれど……しょんぼりという言葉があれほど似合わない男はいないかと……」
 何それとアイリーシャのドン引き具合が見事に語っている。
 彼女とアインスは、プライベートの空間ではエレスティアのことを名前で呼んでくれる数少ない友人だ。
(ええ、その感覚は理解できるけど)
 エレスティアだってそう感じていた時期があったので、共感はできる。
 しかしジルヴェストは、意外と感情が豊かなのだ。
「と、とにかくっ、ジルヴェスト様は抱き上げなど禁止されているため、お元気がないようなのです」
「抱き上げられることに慣れ始めているエレスティア様が心配ですわ。それは通常の夫婦でもあまりないかと」
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